大動脈コラム16「専門家の意見ってなんなのでしょう???」
心臓血管外科 部長 市原 哲也
外来で多くの患者さんと話をする中で、日頃から感じていることがございまして、今回はそのことをお話しいたします。
私どもの外来にいらっしゃる方々は、大半が解離や大動脈瘤の術後の方々です。術後だから、もう手術はしないでいいだろう、と皆さん思っていらっしゃいます。 ところが、前回お話しいたしました方のように、この10年間で5回の手術をお受けになった方がいらっしゃり、気の毒には存じますが期待通りには行かないことが多々ございます。
具体的に申しますと、急性解離で数年前に緊急手術を受けて、その後CTで追跡しておりますと、今度は背中側、あるいは、つないだ人工血管のすぐ下流が膨らんで、 もう一度手術が必要となる方がいらっしゃるのです。
こういう方々に、「もう一度、手術が必要です。」という話をいたしますと、大きくなり始めてから「いずれ手術が必要になる可能性が高いです。」と 話をして来ているためということもあるのでしょうが、比較的すんなりと受け入れてくださり、「覚悟はしておりました」と言ってくださいます。 記憶に新しいところでは、T.W.くん(2度目)、A.K.くん(6度目、前回お話しした方)、さらに、7度の手術をお受けになった、A.S.さん、その節には決断に至るまでの、 あなた方の逡巡のなさには感動し、敬服しておりますよ!
A.K.くんは前回お話しした通りの方で、今回また手術が必要となってしまったのですが、苦しい胸のうちを微塵も感じさせないで決心してくださいましたね! T.W.くん、見事でした!特に私が、心打たれたのは「専門のお医者さんから言われることに疑いの余地などあり得ません。僕のために言ってくださっていることはよくわかっております。」という言葉です。そんなふうに思ってくれているのか!と、感動いたしました。 それに対して、最近、専門家の意見って、いったいなんなんだろう???と思ってしまうことが、数人の方についてございました。
お一人は十数年前、解離の術後で、このたび人工血管の下流が膨らんで手術が必要となったのですが、なかなか理解していただけなくて、当然、決心もしていただけない方です。 ほかの数名の方々には共通点がございまして、今回はセカンドオピニオン(他の施設で意見を聞くこと、患者さんにはこの権利があります)を受けたいとおっしゃり、お手紙、 資料をお持ち頂いて、他の施設へ意見を聞きにいらっしゃったまま、私どもにはなんのお知らせも頂けないまま、その施設で、手術をお受けになっていたことがしばらく後にわかった、 ということです。
一人目の、なかなか決心できない、というのは性分もございますので仕方のないことでしょうが、二人目以降の、セカンドオピニオンにいらしてそれっきり、というのは、心から「専門家の意見ってなんなんだろ・・・。信じてもらえてなかったってことか・・・。」と、がっくり項垂れました。 そのような時には、T.W.くん、A.K.くん、A.S.さんのことを胸に、前を向いて診療にあたろうと気合を入れております。本当に、勇気をくれているのですよ、あなた方は。
今回は、ぼやきのような文章になってしまいましたが、ご容赦ください。
家族や知人の大動脈瘤や、急性解離、瘤破裂のことが心配だという方、遠慮なくご連絡ください。
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心臓血管外科 部長 市原 哲也