医療コラム

大動脈コラム17「6度目の手術が無事に終了、そして退院!!」

大動脈瘤があると言われている方、知人・家族の大動脈瘤のことが心配な方へ

心臓血管外科 部長 市原 哲也

このたび、またしても、心臓血管外科医になって良かったなあと思える出来事がございました。 このコラムをお読み頂いている方々にとっても、生きる勇気、活力の源となるかと存じ、お話しいたします。

以前お話しいたしましたが、この10年間で5回の手術をお受けになった方がいらっしゃいます。そうです、A.K.くんです。彼について復習ですが、 2011年暮れに急性解離で緊急手術を受けて以来、この10年少々の間に4回の手術を受けることになりました。 これで終わりであって欲しかったのですが、なんと、またしても手術が必要となったのです。なんと6度目です!

今回は、初回の緊急手術で、心臓に近い部分の大動脈を人工血管で交換したのですが、この人工血管と心臓との間の、 距離にしてわずか3-4cmのところが太さ60mmにまで膨らんでしまい、破裂の危険が大きいということで手術が必要となったのです。

少しだけ、病気についてお話しいたしましょう。この部分は、心臓の出口の弁(“大動脈弁”と呼びます)と、 心臓の筋肉を養う細い動脈(“冠動脈”と呼びます)の入り口があり、大動脈の“基部(きぶ と読みます)”と呼ばれるとても大切な場所なのです。 ここが太くなると、破裂の危険が高くなるばかりではなく、大動脈弁の逆流が始まって、やがては心臓により大きな負担がかかるようになり“心不全”に陥るという、 二つの弊害が生じます。

2-3年前、この部分が太くなりかけた頃から、いずれここも手術が必要となる、という話をして来てはおりましたが、いよいよその時期が来たことを告げましたところ、 今回もまた、「頑張ります!」と即答してくださいました。私よりも7歳下ではありますが、その毎度ながらの即断にして英断に、またしても頭が下がり、胸が熱くなりました。

こういう英断を下すような心意気の方には、神さんも味方するのでしょう、手術は結構難儀なものだったのですが、無事に終わり、その後も順調で、 手術の後11日目に退院となりました。泣き言一つ言うでもなく、痛みに耐え、リハビリに精を出し、本当に終始、健気であっぱれでした。

この一連の出来事は、私に勇気と共に、とても大きな自信を与えてくれました。初回の胸の傷を再度開いての手術、“再手術”と申しますが、これは難度が高くなり、 当然危険率も高くなります。これが術後11日目に無事に退院となったというのは正に快挙です。よくやったぞ、と自分を褒めてやりたい気持ちになりました。 もちろん、仲間のおかげです。私一人の力ではとてもなしえません。チームを誇りに思います。 このような気持ちにさせてくれたA.K.くん、J.K.さん(奥さんです)、ありがとうございます。

解離という病気は、一度の手術で終わり、ということもございますが、やはり、2度目、3度目の手術が必要となることが少なくございません。 解離をお患いになった方々におかれましては、なんてこった・・・・と項垂れたり、ご自身の体を恨んだり、 さらには今の状態が辛くて「あの時死んでれいば良かったのに・・・」と思ったりというようなことがございましょうが、 そのような際には、このA.K.くん、あるいは、以前お話しいたしましたT.W.くん:2007年、44歳で解離に対し緊急手術後、14年経って2度目の手術が必要となりました、 のことを思い出して、生きてるということは素晴らしい、悪いことばかりじゃないとお考えいただきたく存じます。 さらには、あなた方が生きておいでであるという事実の裏には、残念ながら、病院にたどり着かずに亡くなった方々が多くいらっしゃる、 むしろそのほうが圧倒的に多いのに、ご自身は運良く生かされているということに思いを巡らせて頂きたいのです。 そして希望を持って、楽しく生きて頂きたいと切にお願い申し上げます。

家族や知人の大動脈瘤や、急性解離、瘤破裂のことが心配だという方、遠慮なくご連絡ください。

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市原先生

心臓血管外科 部長 市原 哲也


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