大動脈コラム Vol.21「解離の後の運動について」
心臓血管外科 部長 市原 哲也
私どもの外来にお越しになっている方々から、「急性解離にやられてから数年経つが、運動ダメだよね?」というようなことをよく尋ねられます。
急性解離にやられたという方というのは、
1.A型解離で緊急手術をお受けになった。
2.B型解離で手術を免れた。
3.B型解離で緊急手術が必要となった。
という3通りに分かれますが、これはよろしいですね?
A型、B型の分け方もよろしいですね?
ですから、急性解離にやられた、とおっしゃる方は、このいずれかに属するはずです。もちろん、最も不幸な結果となってしまった方のことを忘れてはおりませんが、ここは、別の話ですので悪しからずご理解ください。
運動してはいけないのか?いいのか?
答えは、運動してよろしゅうございます。
次は、どんな運動までいいのか?いつからOK?という、具体的なことが知りたいですよね?
まず、いつからOK?についてお話しいたします。
急性解離で入院なさった方は、急性解離のリハビリプログラム、というものを基準に、リハビリ師が血圧や脈拍を測りながら、患者さんの状態を観察しつつ、運動を進めて来られたでしょう?
座ることから始まり、そのうちに固定自転車を漕いで、息が上がった、あるいは足が辛くて続けられなくなった、というところまで辿りついたというご記憶がございましょう?
で、いつから?基本的には、急性解離にやられて入院なさったその日から、です。もちろん、緊急手術をお受けになった方は、術後、血圧等が安定してからですが。
とにかく、動けるようになれば、その時からリハビリ、つまり、運動が始まります。血圧、脈拍を見ながらですよ、もちろん。
ですから、当然、退院なさった後も、運動は可能なのです。むしろ、運動していただきたいのです。
いつから?はよろしいですね?
では、どんな運動までしていいのか?に参りましょう。
私どもは、こめかみに青筋が立たない程度ならなんでもOK、とお話ししております。
厳密には、
血圧が急激に150を超えないように、脈拍が110-120を超えないように、
というようなことが必要なのでしょうが、
運動しつつ「血圧は・・・、脈拍は・・・」なんてことを気にしてはいられませんよね?第一、不可能でしょう?
最近では、スマホやコンピュータウォッチ(腕時計型のアレですよ)で測ることができるようになっておりますが。
厳しく管理する、というのが理想なのでしょうが、そこまで厳重にする必要はないと存じます。尤も、急性解離にやられて退院なさった方は、みなさん、何をなさるのにも、こわごわ、でしょう?
問題は、そうして、こわごわとお過ごしになったあと、月日が経って、
ある程度、自信がついて、もう少しいろいろなことがやりたいなーとお思いになった頃ですよね?
基本的には、青筋が立たない程度にしておいてください、です。
以前、トライアスロンをしている方がA型解離で緊急手術をお受けになり、無事に退院なさった後、いつから、トライアスロンできるのか?とお聞きになりました。これには、困りました。トライアスロン中、どれくらいまで血圧や脈拍が上がるのか、調べた限りではデータがないのですよ。数年辛抱しているうちに、助かったことに感謝して、新たな生きがいを見つけ、そちらに気持ちを向け、トライアスロンは卒業で結構です、とおっしゃり、喜ばしいことと肩をたたきました。
結論に参りましょう。
血圧の薬は止めないでくださいね、くれぐれも。
家族や知人の大動脈瘤や、急性解離、瘤破裂のことが心配だという方、遠慮なくご連絡ください。
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心臓血管外科 部長 市原 哲也