大動脈コラム25「急性解離の患者さんのご家族へ」
心臓血管外科 部長 市原 哲也
急性解離を患った方のご家族から、よく尋ねられることがございます。A型で手術後の方のご家族はもちろん、B型で降圧治療中の方のご家族からもです。
質問内容は、誰か一人、ずっとそばについていなくてはいけないのでは?というものです。
結論から申しますと、その必要はございません。
お年寄りで、特に術後で普段の生活活動が無理な方は別ですが、ご自分で身の回りのことができるのであれば、ずっと一緒にいる必要はございません。
「また同じことが起きたらどうするんですか!?」
これも、よく尋ねられます。
ある日突然、急激に痛い、苦しいが始まり、救急車を呼ぶ必要に迫られ、病院に運ばれ治療が始まり、ICUに運ばれた、あるいはそのまま手術室へ運ばれた、という出来事がいつも脳裏にあるはずで、そのせいでいつも気が気じゃないのでしょう。
でも、ご安心ください。退院なさると、みなさん、ご自身で気をつけて生活するようになるものです。血圧の薬はしっかり飲み、生活習慣を整え、それはそれは、薄氷を踏むが如くの生活をなさいます。
ですから、ご家族におかれましては、むしろ、「楽にやりなさいよ」くらいの接し方でよろしいのですよ。何か訴えがあれば、それに耳を傾ける、くらいのことで構いません。いえ、その方がよろしいのです。
退院後の生活で最も大切なのは、血圧の制御、です。血圧の制御に最も必要なことは、薬はもちろんですが、何よりも、精神的な穏やかさを保つことです。
ではこの、精神的な穏やかさを破ることって、なんだと思いますか?
それは、「怒り」です。特に、家族間の怒りは、他人間のよりも、振れ幅が大きいのです。抑えが効かない、ということが大きいのでしょう。
ですから、ご家族がピリピリしていたり、なんだかんだと世話を焼き過ぎたりは、避けるべきでしょう。
でも、あまり、知らん顔していても、「俺の気持ちなどお前にはわからん!!」と、かえって怒りを増幅させることにもなりかねませんよね?
そのあたりは、上手にお付き合いください。
ご家族は各々の生活を大切にすべきです。「この人がいるから、友達と出かけることもできないわ」とか、制限を設ける必要はございません。最も恐ろしい時期は過ぎ去っているのですから。お互いに平穏な暮らしを営むことです。
家族や知人の大動脈瘤や、急性解離、瘤破裂のことが心配だという方、遠慮なくご連絡ください。
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心臓血管外科 部長 市原 哲也