大動脈コラム28「腹部大動脈瘤 破裂の怖さ」
心臓血管外科 部長 市原 哲也
今回は腹の大動脈瘤破裂についてお話しいたしましょう。
破裂は痛い、苦しいだけではなく、命が突然奪われるのです。これが最も恐ろしいことなのです。破裂で命を失う悲劇を未然に防いでほしい!!という願いを込めてお話しいたします。
この1ヶ月間で2人の方が、腹部の大動脈瘤破裂で運ばれました。
お一方は70歳代、もうお一方は80歳代後半です。
共に血圧がとても低く、冷や汗をかいて、痛い、苦しい
とうなっておいででした。
いわゆる、破裂によるショック状態というもので、文字通り、瀕死の状態です。
幸運にも、お二方とも命が救われました!!
お二方とも、よその病院で破裂と診断され、私どもの施設に救急車で運ばれましたが、
そもそも最初の病院によくぞ辿り着いてくださいました。
と申しますのは、一般的に大動脈瘤破裂は、7割の方がその場で亡くなり、3割の方が病院に運ばれる、と言われているからです。
さらに緊急手術で助かるのは、その3割の中のおよそ半分ですから、
破裂すると、1割から2割の方しか助からない、ということです。
ですから、破裂する前に適切な治療が必要だと、日頃から力説しているのです。
では、どうしたら、適切な治療が受けられるのでしょうか?
この答えを申し上げる前に、大動脈瘤の見つかり方についてお話しいたしましょう。
見つかり方 その1:他の病気で病院、医院にかかった際に、腹のエコー検査やレントゲン撮影で瘤が疑われる。
見つかり方 その2:これは、痩せている方のみですが、腹を触るとドクン、ドクンとするものを感じ、病院、医院にかかって見つかる。
見つかり方 その3:破裂して、痛い、苦しい、血圧が下がり瀕死の状態となり、救急車で運ばれて見つかる。あるいは、運ばれたが、亡くなってしまい、調べたところ破裂だった、という見つかり方。
この3つの見つかり方に分けられ、ぜひ、最初の2つで見つかりたいものです。破裂しないことには症状は出ませんから、難しいのですよ、大動脈瘤を見つけるのは。
最も良いのは、その1の、いわゆる「別件逮捕」です。便秘で診てもらう、あるいは、胆嚢の炎症など何らかの痛みで診てもらう、その際に偶然、腹部大動脈瘤が見つかった、という話はよくございます。
これが一番よろしい!!
こうして見つかりさえすれば、瘤が小さい場合は半年ごとにCTで追跡、大きければ手術などが案内されます。つまり、破裂前に適切な治療が始まる、ということです。
早期発見、早期治療、という言葉はがんに対してのみ当てはまるのではございません。
ある日、ある時、突然に命を奪うという大動脈瘤破裂を未然に防ぐことの大切さを、ぜひご理解いただきたく思います。
家族や知人の大動脈瘤や、急性解離、瘤破裂のことが心配だという方、遠慮なくご連絡ください。
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心臓血管外科 部長 市原 哲也