医療コラム

大動脈コラム Vol.4「解離について」

大動脈瘤があると言われている方、知人・家族の大動脈瘤のことが心配な方へ

心臓血管外科 部長 市原 哲也

今回は、太くならずに破裂するという、もうひとつの恐ろしい大動脈疾患である”解離”について解説します。

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図1

図1は解離の説明図で、直径3~4cmの血管である大動脈を輪切りにしたイラストです。 その壁は3枚の極めて薄い膜で構成されています。真ん中の図は、この内側の2枚に裂け目ができ、2枚目といちばん外側の壁との間に血液が流れ出したところです。 右の図は、新たにできた通路に、まるで本来そこに血液が流れていたかのように大きく広がって流れているイラストです。これが解離です。 壁の中の2枚目といちばん外側との間には、本来 隙間はありませんので、ここに血液が流れ出すということは、通常あり得ません。 これが病気なのです。そして、このように壁の内部が急激に剥がれていく時に、猛烈な痛みを伴います。これが、解離の痛みです。 さらに、痛いだけではなく、もっと恐ろしいことが起こります。新たにできた偽の通り道は、いちばん外側の薄い壁で、まさに“薄皮1枚”で 血管の外に面していることになります。ですから、“破裂寸前”という状態となり、これが破れると「突然死」となるのです。 これが解離の本当の恐ろしさなのです。

目の前で今まで一緒にご飯を食べ、話しをながら笑い合っていたのに、突然 白目をむいてテーブルに突っ伏して、それきり・・・。こういう極端な状況も珍しくありません。 「背中や胸が突然痛くなった」「痛みが腹や腰にまで移っていく」など、痛みの範囲や程度は様々です。 先日も、こんなことがありました。胸、背中が痛いという方が、他の施設に運ばれ、そこで急性解離だと診断されました。 その後、当院へ緊急手術目的で搬送中、あと3分で到着するというところで破裂してしまい、残念なことになってしまいました。

このように解離は突然起きるのです。そこに、もともと太い大動脈瘤があろうが無かろうが関係なく、正常の太さの大動脈にも起きるのです。 これが“大動脈解離”なのです。そして“解離”の本当の怖さは、“薄皮1枚”が破れることなのです。それは、“即死”を意味します。 “解離”は正しく治療されないと、24時間以内に90%の方が亡くなる恐ろしい病気なのです。

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解離による痛みの性質は、胸から背中にかけて、「ダンプカーにはねられたような」とか「突然、後ろから蹴飛ばされたような」痛みだそうです。 時には、その痛みで気を失ってしまう方もいるほどです。また、「痛い!!」と思った瞬間 気を失い、気がついたら左手足が動かないというような、 あたかも脳卒中を思わせる症状もあるのです。あるいは、破裂した血管から血液が漏れ出してしまい、心臓を包む袋(心嚢と言いますが)に血液が沢山溜まってしまいます。 それが心臓を押さえつけて動きを悪くし、血液を全身に送り出せなくなってしまうため、冷汗ビッショリとなり、生あくびが出たり、意識がおかしくなってしまうという方もいます。

大抵は救急車で運ばれるのですが、診断確定までの時間は、10分から一昼夜まで、非常に大きな差があります。 と言うのも『胸や背中が猛烈な痛みがあり、かつ血圧が200もある』などという典型的な症状なら、すぐに診断がつくのですが、脳卒中を思わせる症状の場合には、 やはり脳卒中が最初に疑われます。そして、長い“回り道”をした後、やっと見つかることになるからです。 特に、気を失っているところを見つけられ、病院へ運ばれるような場合は、よほど経験豊かな施設でないと、そこですぐに“解離”と疑われることは、 まずありません。大抵は、ご本人の意識が戻った時に「背中が痛い」とか「胸が痛い」などの訴えがあって、CTを撮影したら解離だった、というような見つかり方が多いのです。 こうして、簡単に10時間や20時間は過ぎてしまうので、それでも命があったというのはかなり幸運なケースだと言えます。

このように、急性大動脈解離というのは、ほとんどの方の命をあっという間に奪うものなのです。例え病院にたどり着けたとしても“解離”の診断は、非常に難しいのです。ともすると“迷宮入り”してしまい、間に合わずに亡くなってしまった後、 死後のCT検査で診断がついた、という非常に悲しい見つかり方もあるのです。 もちろん、状態の悪くなり方が余りに急激だと、いくら速く診断をつけても間に合わないということもあります。

運よく施設に運ばれて診断がついたなら、次には治療が始まります。次回は、“解離の治療”について述べたいと思います。

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