大動脈コラム6「B型解離について」
心臓血管外科 部長 市原 哲也
今回は、原則として緊急手術を必要としない急性大動脈解離についてお話しします。
早速ですが、『解離』についてのおさらいです。
右の図で、「A型」と「B型」との違いはお分かりですか?図のピンク色の部分が大動脈で、その頂上に3本の角があります。 これは、主に頭部に行く血管です。これより左下、つまり心臓に近い部分は「上行大動脈」と言い、直径3-4cmの太い動脈です。 これに、エンジ色のコブラみたいなものがついているのが「A型」で、ついていないのが「B型」です。この、エンジ色のコブラが、解離によってできた「偽腔」です。 「A型」は緊急手術が必要ですが、「B型」は原則 緊急手術は必要ありません。 急性大動脈解離A型とB型をまとめると下記の通りです。
A型:解離が上行大動脈に及んでいる。 →緊急手術が必要
B型:解離が上行大動脈に及んでいない。→緊急手術は不要(原則)
たいていの場合、背中や胸などがとても痛いので、最初に行う治療は、痛みと死の恐怖の除去です。 痛みを除去しつつ、血圧の管理を行いますが、この頃には、CT検査も終わっており、緊急手術の必要性の有無が決まっています。 そこで、「B型」と診断されれば、緊急手術は必要ありません。上行大動脈に解離が及んでいない、ということは、とても大切なことです。
ここで、大動脈について、名前のおさらいをしておきます。心臓から出たすぐの上行大動脈は、胸の前から背中へグルっとヘアピンカーブする“弓部大動脈”となり、 さらに、まっすぐに背中を降りて行く、“下行大動脈”、その先は、おなかに入り、“腹部大動脈”、そして、臍のあたりで二股に分かれ、いわゆる“末梢動脈”となります。
上の図からも分かるように、上行大動脈以外の方が長さの点では明らかに長いのですが、危険度は“やや軽い”のです。 勿論、『的確な治療』がなされないと、ほぼ100%亡くなることには間違いありませんが、この場合の的確な治療とは、手術ではなく厳重な血圧管理なのです。 長い歴史の中で、さまざまな試みが行われた結果、手術はしない方が治療成績がいいということが判ったのです。
ただし、“原則として”です。
この“原則”通りでない場合、つまり、次の2つの場合には緊急手術の必要があります。
この2つの場合でなければ、緊急手術の必要はありませんが、油断は禁物です。 入院時には大丈夫でも、入院中、たとえば翌朝、あるいは1週間後に、急激に大動脈が膨らんだり、解離が上行大動脈に及んでしまったりすることがあり、 その場合にはその時点で緊急手術が必要になります。
このように、「B型」解離でも突如として、緊急手術が必要になる場合があるのです。さらに、入院中なのに手術まで辿り着けないで残念なことになることもあり、 決して目の離せない疾患なのです。常に大動脈の変化に注意が必要で、大切なのは、この“変化に気づく”ことでしょう。 私たち外科医の立場としては、「緊急手術の必要はないのか?」と、常に疑っていることが必要なのです。 決して、緊急手術を手ぐすねを引いて待っているわけではありませんが、それほどこの疾患は時々、刻々と変化するものなのです。 そして、その変化を見逃すと、“命取り”になるということを肝に銘じて患者さんや、その家族に接するべきであるということです。
どちらを向いても危険ばかり…ではありますが、順調に過ごせたならば、通常は約2~3週間で退院することができます。 退院後は、外来に通いながら、厳重な血圧管理と、半年毎のCTで大動脈の拡大(大動脈瘤形成)の有無を調べる必要があります。 いわゆる“慢性期”の大動脈解離として加療されることになるのです。ここに到達して、初めて「一命を取り留めましたね」と言うことができるのです。
今回は、緊急手術の必要がない「B型」解離の場合について述べました。
お分かり頂けましたか?
私たちの使命は、
です。
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