大動脈コラム Vol.7「急性解離は怖い、その実例」
心臓血管外科 部長 市原 哲也
急性大動脈解離は、この病気のことを知らない医師にとっては、診断がとても難しいものです。 また、心臓血管外科医の中にも、この病気の恐ろしさを本当に理解していない医師がまだまだいるのです。 2~3年前の話しですが、実例を挙げてお話し致します。
まずは、診断の難しさについてです。50代男性が、外回りの仕事でバイクを運転中、気を失って転倒。 目撃者が救急車を呼び、近くの病院に運ばれました。CTの結果、脳震盪の診断で脳神経外科入院となりました。 十数時間後、目を覚まし「背中が痛い」と訴えたところ、医師は「バイクで転んだのだから当然だ」と言って、湿布を処方しました。 そのうち、胸から腰へと痛みが移り、冷や汗をかく程になり、170あった血圧が急激に80、50と下がって行き、すぐに血圧が計れなくなってしまいました。 つまり、心臓が止まってしまったのです。その後、心臓マッサージ(正しくは、胸骨圧迫といいます)が施されましたが、残念ながら効果なく亡くなりました。 亡くなった直後、死因検索のためCTを撮ったところ、上行大動脈解離と心臓の周囲に血が充満していることがわかりました。
死因は【急性大動脈解離破裂による心タンポナーデ】です。
つまり、破裂によって心臓を包んでいる袋(心嚢と言います)の中に血が溢れ出し、パンパンに膨れ上がり、心臓が押さえ込まれて動けなくなってしまったのです。 代理人から鑑定依頼があり、資料を拝見してわかったことです。
次は、急性解離の怖さを知らなかった心臓血管外科医の話です。患者さんの年齢は55歳、高校生の息子さんのある働き盛りの男性でした。 午前1時30分、突然の胸痛で、近隣の病院に運ばれ、急性解離とすぐに診断されました。 その後、心臓血管外科のある、その地域の基幹施設に運ばれました。もちろん“緊急手術”を依頼されてのことです。 基幹施設到着が午前3時、そこで担当の心臓血管外科医は、「状態が落ち着いていますので、明朝9時から手術を行います。 その前にお越し下さい」と言って家族を帰し、患者さんをICUへ収容しました。 午前5時、本人から「胸が気持ち悪い」と訴えがあり、その直後に目が上転して意識を失い(失神という状態)、そのまま亡くなりました。
何度も申します、急性解離は実に恐ろしいものです。時として、あっという間に大切な人の命を奪うのです。
さて、私どもは
この2つを使命と心得、診療に従事しております。 自分の家族が大動脈瘤だと言われているがどうしていいのかわからない 医師から「もう何もできない」と言われ、絶望の淵に立たされている という方がいらっしゃいましたら、ぜひご連絡下さい。まずは調べて善処致しましょう。
【心臓血管外科へのご相談】
心臓血管外科 部長 市原 哲也